高知県土佐町の山間部に、静かに流れ続ける湧水があります。
その名は「白龍水(はくりゅうすい)」。
大きな観光施設や目立つ看板があるわけではありません。県道沿いの山肌から延びた一本のパイプ。その先から、透き通った水が絶えず流れ出ています。
今回は白龍水を汲んで持ち帰り、同じ嶺北地域にある大豊町の伝統茶「碁石茶」を淹れてみました。
土佐町の水と、大豊町のお茶。
二つを合わせることで、嶺北の自然と文化を一杯の中に感じられる、特別なお茶になりました。
白龍水とは?高知県土佐町地蔵寺にある湧水
白龍水があるのは、高知県土佐郡土佐町地蔵寺です。
「地蔵寺」と聞くと寺院の境内にあるように思うかもしれませんが、ここでいう地蔵寺は地域の名称です。
環境省の「高知県の代表的な湧水」にも白龍水が掲載されています。
環境省の資料によると、県道沿いにあるこの湧水を地元住民が「白龍水」と名付け、現在も町内外から人々が水を汲みに訪れているそうです。
また、地域住民や利用者によって、周辺の清掃や水を引く設備の管理が続けられています。
山から水が湧いているだけでは、私たちは気軽に水を汲むことができません。水を利用できる状態に整え、その環境を守り続けている人たちがいるからこそ、現在も白龍水を訪れることができます。
白龍水を守っているのは、伝説の龍ではなく、この土地で暮らす人々なのかもしれません。

白龍水と白龍湖は別の場所
名前がよく似ているため混同されやすいのですが、土佐町の「白龍水」と、津野町の「白龍湖」は別の場所です。
白龍水は、土佐町地蔵寺にある湧水です。
一方の白龍湖は、四国カルストの麓に位置する津野町の池で、コバルトブルーに見える美しい水面がSNSなどで知られています。
名前は似ていますが、所在地も水辺の種類も異なり、両者に直接的な関係は確認できません。
白龍水を検索すると白龍湖の情報が表示されることもあるため、訪問する際は場所を間違えないよう注意が必要です。
白龍水は「名水百選」なのか?
白龍水は、環境省のウェブサイトに「高知県の代表的な湧水」として掲載されています。
ただし、これは環境省が選定した「名水百選」とは異なるものです。
環境省の代表的な湧水一覧は、自治体が把握している湧水のうち、各自治体が代表的と考える場所をまとめたものです。
白龍水を紹介する際は、「名水百選に選ばれた水」ではなく、「環境省の高知県を代表する湧水として掲載されている」と表現するのが正確です。

大豊町で受け継がれてきた碁石茶
白龍水で淹れたのは、同じ嶺北地域に位置する大豊町の碁石茶です。
碁石茶は、一般的な緑茶とは異なる「後発酵茶(ごはっこうちゃ)」の一種です。
摘み取った茶葉を蒸したあと、寝かせてカビ付けを行い、さらに桶へ漬け込んで乳酸発酵させます。
「カビ付け」と「漬け込み」。
この二段階の発酵を経て作られることが、碁石茶の大きな特徴です。
発酵後の茶葉は四角く切り分けられ、天日で乾燥されます。その黒く四角い姿が碁石に似ていることから、「碁石茶」と呼ばれるようになったとされています。
大豊町の資料では、碁石茶の伝統的な製法は江戸時代から四百年以上受け継がれてきたと紹介されています。

碁石茶は国の重要無形民俗文化財に指定
「大豊の碁石茶製造技術」は、令和八年三月二十四日に国の重要無形民俗文化財に指定されました。
文化庁の資料によると、碁石茶は夏に刈り取った茶葉を蒸し、カビ付けしたあと、桶に数週間漬け込んで発酵させ、最後に乾燥させます。
摘み取った茶葉をすぐに加熱して自然発酵を抑えたうえで、人の手によって発酵を促すことから、独特の酸味が生まれます。
単なる地域の特産品ではなく、山間部の暮らしの中で受け継がれてきた貴重な食文化です。
参考:文化庁・文化遺産データベース「四国山地の発酵茶の製造技術」

白龍水で碁石茶を淹れてみた
持ち帰った白龍水を沸かし、碁石茶へゆっくりと注ぎます。
しばらく待つと、透明感のある美しい琥珀色に変わりました。
碁石茶には、後発酵茶ならではの爽やかな酸味があります。白龍水で淹れた一杯は、その酸味の角が少し丸くなり、奥にあるほのかな甘みも感じやすくなったように思いました。
これはあくまで実際に飲んでみた個人的な感想ですが、水を変えることで、お茶の印象にも違いが生まれるのが面白いところです。
土佐町の白龍水と、大豊町の碁石茶。
どちらも嶺北の山々と、そこで暮らす人々に育まれてきました。
同じ地域の水で、その土地に伝わるお茶を淹れる。
単に喉を潤すだけではなく、土地の自然と歴史を一緒に味わっているような一杯でした。

二煎目まで楽しめる碁石茶
碁石茶は、一つのティーバッグから複数回淹れて楽しめる商品もあります。
一煎目と二煎目では、色や香り、酸味の出方が少しずつ変化します。使う水によっても味の感じ方が変わるため、水道水と湧き水で飲み比べてみるのも面白そうです。
一度で捨てずに二煎目まで味わえるなら、日常のお茶としてのコストパフォーマンスも悪くありません。
湧水を汲みに出かけ、持ち帰った水で地域のお茶を淹れる。目的地を集めていくような感覚で、名水巡りそのものも楽しめます。

白龍水を訪れる際の注意点
白龍水は自然の湧水であり、水道水のように常時消毒・管理された水とは条件が異なります。
環境省の「代表的な湧水」への掲載は、飲用の安全性を保証するものではありません。水量や水質、周辺の状況は、天候や季節によって変化する可能性があります。
利用する際は現地の案内を確認し、体調や保存方法にも十分注意してください。心配な場合は煮沸して利用するなど、各自で判断することが大切です。
また、白龍水は地域住民や利用者によって守られている場所です。周囲を汚さず、長時間場所を占有せず、譲り合って利用しましょう。

まとめ|嶺北の水とお茶が出会った特別な一杯
高知県土佐町地蔵寺の白龍水は、地域の人々によって守られ、町内外から水を汲みに訪れる人がいる湧水です。
その水で淹れたのは、大豊町で四百年以上受け継がれてきた碁石茶。
土佐町の水と、大豊町のお茶。
一見すると別々のものですが、どちらも嶺北の山々と人々の営みから生まれています。
有名な観光地を巡るだけが旅ではありません。
山の中に流れる一本の水を探し、その土地に伝わるお茶を淹れてみる。そんな小さな体験から、高知の奥深さが見えてくることもあります。
白龍水で淹れた碁石茶は、嶺北の自然と文化が一杯の中で出会った、特別なお茶でした。


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