高知県須崎市の浦ノ内と聞いて、神社好きの人なら「鳴無神社(おとなしじんじゃ)」を思い浮かべるかもしれない。
海に向かって伸びる参道と鳥居。
「土佐の宮島」とも呼ばれる独特の景観で知られ、高知県内でも人気の高い神社のひとつだ。
僕も以前訪れたことがある。
ところが今回、浦ノ内を走っていて気になる神社を見つけた。
その名は、
「鳴瀧八幡宮(なるたきはちまんぐう)」
鳴無神社と同じ浦ノ内地区にありながら、こちらは観光地という雰囲気ではない。
道路沿いに鳥居が立ち、その向こうには山へ向かって延びる長い石段。
「こんなところに神社があったのか」
そんな気持ちで石段を登ってみた。
ところが調べてみると、この静かな神社には想像以上に長い歴史と、なんと第65代・花山天皇にまつわる伝説まで残されていた。
今回は、鳴無神社の知名度の影に隠れた浦ノ内の穴場スポット「鳴瀧八幡宮」を紹介したい。
鳴瀧八幡宮とは?
鳴瀧八幡宮は、高知県須崎市浦ノ内に鎮座する神社だ。
かつて浦ノ内地区の総鎮守として信仰を集め、旧社格では郷社に列せられていたとされる。
御祭神は誉田別命(ほんだわけのみこと)。
一般に応神天皇と同一視され、八幡神として全国各地の八幡宮で祀られている神様だ。
現地の案内板には、
「浦ノ内地区総鎮守神である」
とはっきり記されている。
現在の静かな境内だけを見ていると、地域全体を守る重要な神社だったという歴史を知らずに通り過ぎてしまいそうだ。
しかし、ここからが鳴瀧八幡宮の面白いところだった。

創建年代は不明。しかし戦国時代にはすでに存在していた
鳴瀧八幡宮がいつ創建されたのか、正確な年代は分かっていない。
現地の案内板にも、
「勧請年代など詳しくわからない」
と書かれている。
つまり、無理に「○○年創建」と説明できる神社ではない。
ところが歴史資料をたどると、天正17年(1589年)の『浦内郷地検帳』には、この神社に関係する神田などの記録が残されているという。
1589年といえば戦国時代。
少なくとも400年以上前には、この土地の信仰に関わる存在だったことになる。
道路沿いの小さな鳥居を見ただけでは、そんな歴史を持っているとはなかなか想像できない。
こういう場所があるから、高知を走るのは面白い。

鳥居の向こうに待っていた長い石段
鳴瀧八幡宮を訪れて、まず目に飛び込んできたのが石段だった。
赤いハンターカブを停め、鳥居を見る。
その奥には、山の斜面を一直線に登っていく石段。
……うわ、階段。
神社巡りをしていると、なぜかこういう展開が多い。
しかし、ここまで来たら登るしかない。
資料によって石段の数には違いがあり、120段余り、あるいは140余段とも紹介されている。
いずれにしても、100段を超える石段であることには違いない。
一段、また一段と登っていく。
そして途中で振り返ると、木々の隙間から浦ノ内湾が姿を現した。
これがいい。
青い空。
山の緑。
その向こうに穏やかな浦ノ内湾。
道路脇に停めたハンターカブが、ずいぶん小さく見える。
石段を登った人だけが見られる景色だ。

石段の先に現れる静かな境内
長い石段を登り切ると、空気が変わった。
そこにあったのは、観光客で賑わう華やかな神社ではない。
木々に囲まれた静かな境内。
狛犬。
長い年月を感じさせる石灯籠。
そして木造の社殿。
拝殿には立派なしめ縄と紙垂が下がり、その向こうには浦ノ内の山々と湾が見える。
特に印象に残ったのが、境内から見える浦ノ内湾だった。
鳴無神社は海辺から浦ノ内湾を感じる神社。
それに対して鳴瀧八幡宮では、高台から木々越しに湾を眺める。
同じ浦ノ内でも、景色の見え方がまったく違う。
有名な観光スポットを巡る旅も楽しい。
しかし、人の少ない静かな境内で、その土地の風景をゆっくり眺める時間も悪くない。
むしろ僕は、こういう場所に惹かれる。

鳴瀧八幡宮に残る「花山天皇」の伝説
そして鳴瀧八幡宮には、さらに興味深い伝承が残されている。
それが第65代・花山天皇だ。
現地案内板には、
「一説には人皇第65代花山院が京都から勧請したものと伝えられる」
と記されている。
花山天皇は平安時代の天皇で、若くして即位したものの、在位期間は短く、その生涯にはさまざまな物語が残されている人物だ。
そんな京都の天皇の名前が、遠く離れた土佐・浦ノ内の神社に登場する。
なぜなのか。
詳しいことは分かっていない。
だからこそ面白い。
さらに浦ノ内地区に伝わる資料では、境内には「いらず」と呼ばれる場所があり、そこを花山天皇の御陵とする伝承も残されているという。
もちろん、これは史実として確認された「花山天皇の墓」という意味ではない。
あくまでも、この土地に残されてきた伝承だ。
しかし、何百年もの間、人から人へ語り継がれてきた物語そのものが地域の歴史でもある。
「なぜ浦ノ内に花山天皇の伝説が残ったのだろう?」
そんな疑問を抱きながら境内を見ると、先ほどまでとは少し違って見えてくるから不思議だ。

本殿の彫刻も見逃したくない
鳴瀧八幡宮を訪れたら、建物にも注目してほしい。
現地案内板には、本殿について、
「千木、勝男木神々しい銅板葺で、蛙股、虹梁などの彫刻は見事である」
と紹介されている。
一見すると素朴な山あいの神社なのだが、細部を見るとしっかりとした意匠が残されている。
有名観光地のように大きな案内施設があるわけではない。
だからこそ、急いで参拝して帰るのではなく、建物や石灯籠、狛犬などをじっくり眺めてみると面白い。

有名な鳴無神社の近くにある「もう一つの浦ノ内」
浦ノ内には、有名な鳴無神社がある。
海に向かう参道という唯一無二の景観もあり、初めて浦ノ内を観光するなら訪れたい場所だと思う。
ただ、その知名度があまりにも高いため、周辺にある小さな神社や史跡はどうしても影に隠れてしまう。
鳴瀧八幡宮も、そのひとつなのかもしれない。
しかし実際に訪れてみると、
100段を超える石段。
浦ノ内湾を見下ろす境内。
戦国時代までさかのぼる記録。
花山天皇にまつわる伝承。
そして地域の総鎮守として人々に大切にされてきた歴史。
小さな境内の中に、思った以上にたくさんの物語が詰まっていた。
鳴無神社を訪れたことがある人にも、今度は少し視線を変えて浦ノ内を巡ってみてほしい。
有名スポットのすぐ近くに、まだ知らない高知が残っている。

鳴瀧八幡宮を訪れる際の注意点
鳴瀧八幡宮は一般的な観光施設とは違う。
地域の人たちが大切にしてきた信仰の場所だ。
参拝するときは境内で大声を出したり、立入禁止と思われる場所へ入ったりせず、静かに参拝したい。
特に「いらず」については伝承の残る場所でもあるため、興味本位で立ち入るのではなく、その土地の信仰を尊重したいところだ。
また、長い石段があるため歩きやすい靴がおすすめ。
雨の日や雨上がりは石段が滑りやすくなる可能性もあるので注意したい。

鳴瀧八幡宮 基本情報
名称: 鳴瀧八幡宮(なるたきはちまんぐう)
所在地: 高知県須崎市浦ノ内
ジャンル: 神社・歴史スポット・穴場スポット
見どころ: 長い石段、浦ノ内湾の景色、社殿、本殿彫刻、花山天皇伝説
周辺スポット: 鳴無神社、浦ノ内湾、横浪半島
※神社は観光施設ではありません。現地の案内や状況を確認し、地域の方々に配慮して参拝してください。
まとめ|鳴無神社だけじゃない。浦ノ内で見つけた知られざる古社
今回訪れた、高知県須崎市浦ノ内の鳴瀧八幡宮。
最初は道路沿いで偶然目に入った、静かな神社だった。
ところが長い石段を登り、境内を歩き、その歴史を調べてみると、400年以上前の記録や花山天皇にまつわる伝承まで出てきた。
有名な観光スポットには、有名になるだけの魅力がある。
でも、そのすぐ近くにある名も知らなかった場所へ寄り道してみると、ときどき思いがけない物語に出会える。
今回の鳴瀧八幡宮は、まさにそんな場所だった。
「高知には何もない」なんてことはない。
知らないだけで、まだまだ面白い場所がある。
次はどんな場所に出会えるだろう。
赤いハンターカブで、また高知を走って探してみたい。
小さな幸せ、探します。
また、まっちゅうきね!


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