高知県南国市の後免町に、「伝説のベトナム料理屋」という店がある。なかなか思い切った名前だ。店のことを聞いたとき、まずその名前が頭に残った。しかも、料理がうまいという。そこまで聞いたら、確かめに行きたくなる。
今回は嫁氏と二人で訪ねてみた。僕が注文したのは、これまで食べたことのないブンチャー。嫁氏はフォーを選んだ。初めての料理に挑戦する楽しさと、いつもの相手と食卓を囲む気楽さ。その両方を味わえた昼食だった。
後免町に現れた、忘れられない名前の店
店の外に掲げられた「伝説のベトナム料理屋」の看板を見て、あらためて足が止まる。料理名でも人名でもなく、「伝説」。これほど覚えやすい屋号はなかなかない。名前を見て少し身構えたが、店内に入ると雰囲気は落ち着いていた。
明るくすっきりした空間には、ゆっくり食事ができる喫茶店のような親しみやすさがある。ベトナム料理になじみがない人でも、構えずに席につけそうだ。僕らもメニューを眺めながら、それぞれ食べたいものを選んだ。
店の名前から、もっとにぎやかで装飾の多い店内を想像していたので、この落ち着いた空気は意外だった。旅先の異国料理店に飛び込むような緊張感はなく、普段の昼食の延長で新しい味に出会える。南国市内で「今日はいつもと違う麺を食べたい」と思ったとき、こんな店があるのはうれしい。
僕の目に留まったのはブンチャー。フォーなら知っているが、ブンチャーは名前を聞いたことがある程度で、食べるのは初めてだった。せっかく新しい店に来たのだから、まだ知らない一皿を選んでみよう。一方、嫁氏が頼んだのはフォー。二人で違う料理にすれば、お互いの味も少し試せる。

食べる前に教わった、三段階の味変
料理が届くと、お店の方が食べ方を教えてくれた。卓上には味を変えるための調味料があり、辛さの説明がとてもわかりやすい。
「ちょっと辛い」「辛い」「めちゃ辛い」。
細かな数字や難しい名前を並べるより、ずっと伝わる。最後の「めちゃ辛い」で思わず笑ってしまった。初めての料理を前に、どう食べたらいいのだろうと迷っていても、こうして声をかけてもらえると安心する。
辛いものは好きでも、初めての料理で最初から調味料を入れすぎるのは少し怖い。どれがどの程度辛いのかを先に教えてもらえれば、自分で加減できる。とくに今回は二人で別の麺を頼んだので、お互いの料理を味わう前に基本の味を知っておきたかった。何気ないひと言だが、食事を楽しむための大切な案内だった。
まずは料理そのものの味を楽しみ、調味料は少しずつ試してみる。辛さが得意かどうかは人それぞれなので、自分の好みに合わせて加えられるのもうれしい。料理の説明を聞いた時間も、この店での食事の思い出になった。

嫁氏が黙って頷いたフォーを、ひと口
食べ始めてすぐ、嫁氏の様子が気になった。フォーをひと口食べて、うん、うん、と頷いている。言葉はなくても、美味しいときの反応はわかるものだ。
「そんなにうまいのか」と、僕も少し分けてもらった。温かいスープと麺をひと口。うん、これはかなりうまいやん。嫁氏が頷いていた理由に納得した。
フォーを丸ごと一杯食べたわけではないから、具材や味変まで語り尽くすことはできない。それでも、ひと口でもう一度食べたいと思えた。次に来るなら、僕もフォーを注文して、最初から最後までじっくり味わってみたい。
普段、二人で食事をするときは、感想を細かく言葉にしなくても反応で伝わることがある。この日もそうだった。先に美味しさを知らせてくれたのは嫁氏の頷き。僕がひと口もらってから「うまい」と言うまで、たいした会話はしていない。それでも、この店のフォーを思い出すと、まずあの頷いた姿が浮かぶ。

初めて食べたブンチャーの楽しさ
僕が注文したブンチャーは、麺と野菜、つけだれを合わせて食べるベトナムの麺料理。写真で見るだけでは、実際にどう食べるのか想像しづらかった。お店の方に教えてもらい、お米でできた麺をつけだれにくぐらせる。
食べ慣れた日本のつけ麺とはまた違う一皿だ。麺だけでなく、添えられた野菜も一緒に楽しめる。初めて口にする料理だからこそ、次はどう食べようかと考える時間まで面白い。僕には美味しく、頼んでよかったと思えるブンチャーだった。
食事の前にはメニューの写真を見て、「これはどういう料理だろう」と考えていた。実物を前にすると、皿に盛られた麺と野菜、別の器に入ったつけだれの組み合わせが新鮮だ。麺をひと口食べ、次は野菜と合わせる。食べ方を変えるたびに、同じ一皿でも違う表情が見えてくる。初めての料理は、味を知るだけでなく、食べ方を覚える楽しみもあるのだと思った。
ただ、今回もっとも強く印象に残った味は、嫁氏からもらったフォーのひと口かもしれない。自分の料理を楽しみながら、相手の注文まで気になってしまう。二人で別々のものを頼んだ日の、ちょっと得をしたような瞬間だ。
フォーとブンチャーを同じ日に選んだことで、ベトナムの麺料理にもいろいろな楽しみ方があると実感した。温かい汁の中で味わうフォーと、麺をつけだれにくぐらせるブンチャー。どちらを選ぶか迷ったら、誰かと二人で訪れて違うものを注文するのも楽しい。僕らの場合、次回の注文まで決まってしまったようなものだ。

初めてでも入りやすい、後免町のベトナム料理店
「伝説のベトナム料理屋」という大胆な名前に誘われて訪ねたが、記憶に残ったのは料理だけではなかった。落ち着いた店内、食べ方を教えてくれるお店の方、フォーを食べて頷く嫁氏。そういう小さな場面が重なって、また来たいと思える店になった。
フォーが好きな人はもちろん、僕のようにブンチャーを初めて食べてみたい人にも、立ち寄るきっかけがある。ベトナム料理に詳しくなくても、まず気になる一品を選んでみるといい。次回は僕がフォー、嫁氏には別の料理を頼んでもらおうか。そんな話をしながら、店をあとにした。
店名からは「どんなすごい料理が出てくるんだろう」と想像する。でも、この日いちばん心に残ったのは、食卓の向こうで嫁氏が静かに頷いたことだった。派手な言葉より、食べている人の表情のほうが説得力を持つことがある。初めて食べたブンチャーと、思わず横取りしたくなったフォー。後免町で、またひとつ二人の食事の記憶が増えた。


店舗情報
- 店名:伝説のベトナム料理屋
- 住所:高知県南国市後免町4丁目4-3(後免町は「ごめんまち」)www.ubereats.com
- 今回食べたもの:ブンチャー、フォー
営業時間や定休日、メニューは変わることがあるため、訪問前にお店の最新の案内を確認してほしい。


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